「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.30
1996年6月号
(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)
建物を沈下させるのは「圧密」という現象です。
「圧密(あつみつ)」。おそらく読書の皆さんにとっては、聞き慣れない言葉ではないでしょうか。そのままを解釈すれば、なんらかの力によって物が圧縮され、その密度がギューッと詰まることを言うのですが、この「圧密」こそは、建物を沈下させる諸悪の根元なのです。
圧密現象といっても、ことさら難しく考えることはありません。物理の実験室をのぞかなくても、探せばだれでも知っている思いがけないところに圧密を発見することができます。その身近な例が、実は漬物のタクアンだといえば唐突すぎるでしょうか。その素材である大根は圧密現象によってタクアンに変身するのです。
我々の人体は言うに及ばず、動植物はどれも体内に多量の水分を含んでいます。金属などと違って、押せば弾力があるのは、動植物が水分を含んでいるからで、もちろん、大根にもたっぷりと水分はふくまれています。さて、その大根を桶に並べて、上から漬物石で重しをします。すると桶のなかではいったい何が起こるか。日数を追うごとに大根からは水が絞り出されてくるのです。
古漬けのタクアンともなると、はじめに仕込んだ丸々の大根の面影はどこにもなくて、やせ細ってしわくちゃになってくるわけです。つまり、失われた水分の量だけ体積が縮んだのですが、結果はカリカリのタクアンの出来上がりです。
このように水が絞り出されて体積が収縮する現象のことを「圧密」と呼ぶのですが、自然界の土には、動植物と同様にかなりの量の水分が含まれていて、重しを載せると大根が圧密したように、土も圧密を起こすのです。このとき土にとっての重しにあたるのは、いうまでもなく建物にほかなりません。水をたっぷりと含んだ地盤の上に建物を載せると、土中の水分が横に移動し始めます。水が逃げて行けば、水のボリュームだけ地盤が縮んでしまうので、その上に載っている建物は足元から沈み込みます。
ところで、圧密現象は見ている間に起こる急激な変化ではありません。大根がいきなりタクアンになるわけではないように、建物は徐々に沈下するのです。それというのも水が横方向に排水されるスピードは1×(10の-5乗)(センチ/秒)、年間に直すとわずか3メートル程度に過ぎず、建物の直下から水が逃げていくには数年を要するからなのです。
すなわち、竣工したての建物を見ても、沈下しているかどうかは分からないということになるわけで、圧密現象がやっかいなのは、住んでみて数年経ってみないと沈下が顕在化しないことです。
建物の沈下は、上に載る建物の荷重が重いほど、また、下で支える地盤が軟弱なほど大きくなります。同じ地盤でも住宅とビルとでは過重の条件が違うので住宅ならば圧密はごく小さいのに、ビルでは圧密がいつまでも続いて傾いてしまう場合だってあるのです。逆に、同じ2階建ての住宅なのに、軟弱な地盤が1メートルの厚さしかない場所と10メートルもある場所では、逃げていく水の総量が全く異なってきますし、たっぷりと水を含んでいる地盤とでそうではない地盤とでも圧密量が違います。
地盤の表面を見ただけで、水分が多いのか少ないのか、軟弱な地盤がどのくらい厚さがあるのかを見分けることはほとんど不可能です。しかし、それと知らずに建物を建ててしまい、いったん建ってしまった建物が沈下したからといって、その時にはすでに基礎を取り換えるには遅すぎます。ころばぬ先のつえではありませんが、事前に地盤調査をするのがなによりです。