「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.13

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1995年1月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

相談内容

神奈川県 川崎市 江川均さん(仮名・37歳)


「現在水田の土地に盛り土をして木造2階建ての自宅を新築する予定です。盛り土については、いろいろ問題があると聞いたのことがあり、心配しています。そのまま家を建ててもよいものでしょうか?」


長らく兼業農家としてやってきた川崎市にある江川さん宅は、ある事情からこれまで住んでいた自宅を手放し、両親は別の土地に引っ越し、長男である均さんが水田の一角を相続して家を建てることになりました。

「この土地を離れたくなかったので、いちばん日当たりがよく、いちばん環境もよい土地を選んだつもりで水田を残したのですが、[新しい住まいの設計]のこのページで、水田は地盤がよくないと読み、がくぜんとしているんです」

江川さんはそう言って本当にガッカリした様子で肩を落とします。あらかじめ周囲を擁壁で囲った上で中に土を入れる予定でしたが、盛り土はかなりの重さになること、盛り土をしても地盤が盤石になるとは限らないことなどを知って、不安にかられているいるというのです。

「もうあの水田の土地しかありませんし、どうしたらいいのでしょうか」

木造2階建てを建てる予定の江川さん、とる道はあるのでしょうか。

回答

土地が水田として利用されているのは、それなりに理由があってのことで、そこが畑や宅地としては不適切であるということが多いのです。軟弱な地盤がどの程度の深さまで存在するかは一概に規定できませんが、少なくとも1メートル程度はズブズブの地盤が分布しているはずです。実際に地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験)を実施してみれば、軟弱層の厚さや軟弱の程度を推定することができますが、中には10メートル以上も軟弱層が連続している場所もあります。

さて江川さんのおっしゃる盛り土については二つの点を知っているとよいと考えられます。まずは、1.盛り土自体が非常にふかふかしているということです。土の粒子同士の結合がゆるいことはもちろん、盛り土中には相当量の空気と水が含まれており、これらが大気中へ蒸発・放散されたり、脇に逃げたりなどして、盛り土のボリュームが圧縮していきます。次に、2.盛りう土は予想以上に重いということがあります。1平方メートルあたり1メートルの盛り土で約1.5トン、2メートルではその倍の3トンの重みが下の地盤を刺激するので、もともと地盤が軟弱であれば、盛り土の荷重に耐えることができずに沈下が発生します。

建物の荷重と盛り土の荷重を比べてみれば、盛り土自体の重みは決して無視できません。普通の木造2階建ての建物荷重は1平方メートルあたり0.8トンから1トンに満たない荷重ですから、2メートルの盛り土荷重ならば3階建てかそれ以上の建物に相当する重さになるわけです。

すなわち、地面の上に単純に建物が載るのではなくて、地面の上に土が載り、さらにその上に建物が載るという二重構造で実質的には2階建てが2棟のしかかる計算になるのです。もし盛り土が2メートルの厚さでしたら、元の地盤を刺激する負荷は3棟分の建物が縦に積み重なったに等しいことになり、住宅の地盤としては、かなり良好な地盤でない限り、沈下を起こす可能性があると言わねばなりません。

最終的な沈下量は、盛り土が厚いほど、また元の地盤が軟弱であるほど大きくなり、沈下が終息するまでの時間も長期間を要します。少なくとも新しい盛り土が落ち着くまでには数年を経過しなくてはいけませんが、中には15年にわたって毎年1センチずつ沈下が発生し続けているという事例もあり、盛り土後に建物着工までの放置期間が見込めない場合には、基礎の仕様を軟弱地盤用に変更するか、地盤改良工事を事前に施しておくことが必要です。

逆転の発想ですが、住宅・都市整備公団などでは、盛り土部分に多めに山盛りの土を入れて数年間は寝かせておき、余分の盛り土の重みを利用して沈下を強制的に促進させるという手立てを講じることがよくあります。建物が着工されるときに余分の盛り土を取り去れば、建物が載ったとしても、その後に大きな沈下が発生しないという原理です。


教訓

新しい盛り土が落ち着くまでには数年の経過が必要です。
放置期間を見込めないときは地盤改良工事をしてください。