「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.18
1995年6月号
(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)
地盤が液状化して傾いてしまった場合、どうやって復元するのか?
阪神・淡路大震災では、かつてない規模で地盤の液状化が発生し、人工島であるポートアイランドや六甲アイランド、及び海浜の広域埋め立て地の住宅では建物が傾くなどの被害が続出しているようです。
「地盤の液状化」は1.ゆるい砂地盤で、かつ2.地下水位の浅い場所で起きやすいとされているのですが、埋め立て地はまさにこの条件にぴったりとあてはまる地盤と言えるのです。
もともと土木工事の常識では、粘着力の強い粘着土で盛り土や埋め土を行ってはならないということになっており、最も上質な盛り土の材料としては山砂を用いるのが適切とされているのです。砂質土は粘性土に比べ、土を盛った後の転圧作業による締め固めの効果が上がるのでそのような規定があるのですが、一方で、液状化に対しては裏目に出てしまう危険性があるのです。
いったん液状化が起こると、それまで建物の荷重を支えていた地盤が流体のようになり、基礎が地盤の中へとめり込んでいき建物が傾いてしまう場合と、逆に、地中から噴き上げてくる水と砂(噴砂)によって、基礎が持ち上げられてしまう場合の2通りの現象が同時並行的に多発します。その間、数10秒から分くらいまでのわずかの時間なのですが、一瞬にもせよ地盤の支えを失えば建物は隆起するか沈降するかして傾いてしまいます。
高層ビルで液状化の被害が少なかったのは、硬い地盤まで支持杭を到達させ、しかも杭と基礎とが緊密に固定されていたため、隆起も沈下もまぬがれているからです。一戸建ての住宅では、何10メートルも杭を打って液状化対策を講じておくことは一般に行いません。
その理由の第一は、建設コストの大幅アップということに尽きますが、堅牢な支持杭を打設するにはかなり広い施工スペースが必要になるということもあります。支持杭に限らず、大規模な土木や建築の現場で有効とされているさまざまな液状化対策でも、そのまま戸建て住宅で応用可能な方法というのはごく数種の工法でしかありません。
日本建築学会で編纂した「小規模建築物基礎設計の手引き」によれば、既に軟弱地盤対策としても普及している「表層地盤改良工法」が実施可能な液状化対策として提案されていますが、東大や千葉県が共同で開発した「へちまドレーン工法」と呼ばれるプラスチック製の水抜き管をあらかじめ建物周囲に敷設しておく工法が注目されています。
ところで、建物本体は何ら損傷を受けていないにもかかわらず、液状化によって傾いてしまった住宅が相当数あることが、詳細な現地踏査によって次第に明らかになってきています。それらの住宅については、目下、「沈下修正工事」と呼ばれる特殊工事によって、元の水平な状態まで建物ごとジャッキアップさせることが検討されています。
建物と隣地境界沿いの塀とに挟まれた非常に狭い空き地で、人ひとりがやっと入っていけるかどうかのスペースで、ほとんど手作業に頼る根気の要る作業なのですが、これまでにも不同沈下してしまった建物を修復するのに多くの実績をもっている工法です。
なお、現在までに液状化予測について何らかの報告書をとりまとめている行政機関は、東京都、埼玉、神奈川、千葉、静岡、長野、愛知、宮城の各県、大阪、札幌、名古屋、川崎の各市があります。東京都や神奈川県などでは予測図を一般に公開し、頒布もしていますが、兵庫県や神戸市をはじめ、かつて大きな被害を出した新潟県でも、予測図を作成するまでには至っていません。
今回の震災を機に予算が計上され、その他の道府県でも整備が進むことは間違いありませんが、一刻も早く液状化や活断層、さらには地震動の増幅されやすい軟弱地盤についての要注意地域がだれの目にも明らかにされる必要があります。地盤というのは見ただけではその性状を把握することは困難です。新たに購入しようとする土地、建物を建てようとする地盤について、まずはその性状を知ることから始めて、地盤と建物の耐震性能を強化するような処置を講じていけば、完璧とは言わぬまでも、惨事を回避できるのではないでしょうか。