「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.6
1994年6月号
(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)
相談内容
埼玉県 東松山市 田中英雄さん(仮名・41歳)
「建築条件付きの土地を見つけました。ところが見に行ったら周りは低湿地の水田。でも価格は魅力的だから、地盤調査をしてくれと要求したんです。けど、業者はやってくれなくて...」
埼玉県の東武東上線の沿線の賃貸マンションに住む田中英雄さんは、金融公庫の金利が下がった去年、今が家の買い時だと物件を探し始めました。家族は5人、資金は800万円ほど。延べ床面積は最低30坪欲しいけど、価格は土地付きで5000万円が限度です。
「最初はマンションを買おうかとも考えたんですけど、つい最近チラシで5500万円の延べ床面積30坪の建築条件付きの分譲地の広告を見て、これだッと思ったんです」
住み慣れた東武東上線沿線から離れたくはない。東松山市はお母さんの家にも近く、早速下見に行く決心をしました。
「気に入ったらその場で手付けを打とうとお金まで持っていったんですよ。ところが大変なことがわかちゃって、それどころじゃなくなったんです」
田中さんの大変なことというのは、こうです。見に行ったのは今年初め。冬でしたからよくわかりませんでしたが、同時に売り出された4つの宅地の周りはどうも水田らしい。分譲地の一角は1メートルほどの擁壁で盛り土されており、そこだけが水田に浮かぶ島のように高くなっています。
「それだけだったら、わたしたちもそこが軟弱地盤の低地だと気がつかなかったかもしれません。でもゾッとしたのは、幹線道路でバスを降りて現地まで歩く間に、売れていない分譲住宅を見てしまった時。中を見ると廃屋同然で、基礎や建物に亀裂が入っていて、テラスの土間コンクリートの下に隙間が空いています。これを見て地盤が悪いのではないかと思ったんです」
当然手付けは打たず、買うこともどうしようかと悩んだそうです。でも広さと資金のことを考えるとあきらめきれない気もします。で、田中さんは業者に地盤調査をしてくれるように頼みました。
「ところが、費用がかかるからと、はっきりした返事をしてくれません。そんな時に知人から数万円でできる方法があると聞いて、数万円のことならと、自分ですることにしたのです」
地盤調査の結果は予想通り軟弱地盤で、一般的な布基礎ではムリ、べた基礎にしても地盤のバランスが悪いので危険性があるとの診断。田中さんはこれを業者に見せ、最終的には地盤改良工事をすることで話しがまとまりました。
「あのときすぐにあきらめなくて、本当によかったと思っているんです。出資したのは結局地盤調査の6万円だけで、安心して掘り出し物件を買えたのと同じことなんですから」
田中さんはそう言って、今は晴れ晴れと家の図面ができるのを待つ日々です。
回答
田中さんが見た住宅団地は、専門の地盤調査業者の間では知らぬものがいないほどの不同沈下(等しく沈まないこと)の多発地帯です。田中さんが途中で気がついたのは実に賢明だったと言えます。河川脇の沼地や湿地だった場所で、盛り土をしてもその土の重さで沈むほどの、腐植土と呼ばれる超軟弱地盤が厚く堆積しているのです。
けれど地盤が悪いからと言ってすぐにあきらめることはありません。きちんと数字で地盤を把握し、しかるべき適切な処置を講じてやれば、建物は健全に建てることができます。優良な工務店、ハウスメーカーであれば、必ず地盤調査をしてから基礎の設計をすることが社内規定でうたわれていますが、まだまだ一般的には田中さんが問い合わせたような業者が多いようです。
業者が地盤調査は費用がかかると言ったのは、ビル用のボーリング試験を考えていたからでしょう。田中さんが頼んだのはスウェーデン式サウンディング試験という、戸建て住宅用の調査で、費用はボーリングの3分の1以下で済みます。
教訓
地盤に不安を感じた時は、自分で費用を負担しても実施した方が結局は得だったという場合があります。