「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.5

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1994年5月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

相談内容

東京都 世田谷区 前橋洋子さん(仮名・52歳)


「我が家は4年前に建て替えました、隣家が最近建て替えることになて、見知らぬ機械が入っています。聞くと、このあたりはなんと軟弱地盤の谷地だとわかったんです!」


前橋洋子さんの家は私鉄沿線から歩いて10分ほどの閑静な住宅街の一角にあります。都心まで数十分の恵まれた環境に立地していますから、4年前、結婚した長男から一緒に住みたいという申し入れがあった時、あるハウスメーカーで2世帯同居の住宅に建て替えました。

ところが最近、隣家がやはり建て替えることになって、意外なことがわかったんです。

「隣の奥さんがご挨拶にみえて、既存の建物が解体されて更地になり、いよいよこれから着工だなと思っていた時です。見たことのない建設機械が入って、2日がかりでなにやら土の下を細工しているのです」

前橋さんの旧知の仲の隣家の奥さんが再び現場を見に来た時に尋ねてみました。するとそれは地盤改良工事であり、事前に建設会社で地盤調査をしてもらったところ、隣家の場所は軟弱な谷地で、そのまま家を建てると不同沈下(不均等に沈むこと)する恐れがあることがわかったからだ、と言います。地盤補強のためにあえてやってもらった工事だと聞き、驚いたのは前橋さんです。

「だって隣の地盤が弱いってことは、うちもそうだってことでしょう。早々我が家を建てたハウスメーカーに問い合わせたんです。そうしたら、地盤が軟弱なことはわかっていたので、基礎の仕様を変更してそれなりに対応した、と言うの。でも釈然としないわよねえ。だって地盤調査もしていないし、こちらから尋ねるまで軟弱な谷地だということさえ、教えてくれなかったんだから」

言われてみれば思い当たるふしがないわけでもありません。

「まだ建ってから4年しかたっていないのに、リビングの壁紙はぶよぶよ波打ってきているし、和室の畳も黒ずんできているのよ。隣の奥さんの話によると、そういうことすべてが”軟弱地盤”のせいで湿気があがって来ているのだって。まだ家が傾いているわけではないけど、お隣のように地盤改良工事をしたわけではないし、この先いつどうなるかわからないわけで、ホント心配です」

建物の瑕疵保証期間はとっくにすぎていますし、地盤調査をしなかったばっかりに...と悔しそうな前橋さんなのです。

回答

市街化された住宅地では、地盤の悪い谷地を、それと認識することは大変に困難です。というのも谷に臨む斜面は長い年月の間に次第にゆるい勾配に改変されており、よほど気をつけて景観の変化を見届けない限り、そこが谷地であることには気づかないことが多いからです。しかも、かつては谷底を流れていたはずの水路も、今はほとんど埋め立てられ「暗渠」(地下に設けた水路のこと)となっており、体裁よく遊歩道や緑道に化けており、住民の憩いの散策道にしか見えないからです。

東京に昔から住んでいるという人でも、たとえば北沢川、烏山川、宇田川、桃園川、谷端川などの川の名前をご存知の方は少ないのではないでしょうか。これらのかつては固有名を持っていた河川が実はすべて暗渠となって、地図上から消えているのです。

「東京都渋谷区宇田川」は現在のNHKの所在地としてかろうじてその名をとどめているに過ぎませんが、かつてはハチ公で有名な渋谷の駅前には水車があったのです。(興味のある方は、大岡昇平著「幼年期」をご覧ください)。

暗渠はその両端を車止めで塞がれて、車両の通行ができないか、あるいは車両重量制限の交通標識が立っていて、車の重みや振動で地中の土管が傷まないように配慮さえているのです(市街地では、河川は地中を流れているのです!)

もちろん暗渠のそばの地盤が良好なわけはありません。谷地の地盤が軟弱であることは、多数の地盤調査結果から裏付けられている事実なのです。


教訓

ハウスメーカーによっては地盤調査の実施を義務づけているところもあります。たかが数万円ですむ(6万円くらい)ことですから、家を建てる前にはぜひ検討してみたらどうでしょう。