「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.2

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1994年2月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

相談内容

神奈川県 川崎市 後藤英雄さん(仮名・38歳)


「見晴らしも日当たりもとてもいい、ひな壇の造成地を買って家を建て、一年経ちましたが擁壁側が沈んできて、この先とても不安です」


一昨年、後藤英雄さんはひな壇状に造成した斜面の途中にある宅地、48坪を買いました。長年ためた自己資金に親から借金をし、会社から融資を受けて工面した5000万円。

「見晴らしのとてもいい土地でね、南に面したひな壇は日当たりもよく、バブルがはじけた後だから喜んでいたんです」

隣地との高さは3メートルの差がありますから、南側の眼下ははるか遠くまで見晴らせます。隣地との境にはいかにも頑丈そうな垂直の擁壁が立っていて、その中を平坦な土地にするため盛り土がしてあるということでしたが、区画整理された長方形の土地は間取りを考える上でとても恵まれた地形でした。そこに両親と同居の2世帯住宅を建て始めたのは昨年春。秋には堂々木造2階建てが完成しました。

「友人がハウスメーカーにいて、彼のところにすべてを任せて建てたんですけど、細かいところまでとてもよく要望を聞いてくれて、理想的に近い家ができたんです」

好立地のいい形の土地に、両親を呼び寄せ、家族みんなで楽しく過ごせる理想のわが家ができた---。本来なら万々歳のハッピーエンドで終わる体験談のはずでした。ところが、後藤さんの場合はそうはいかなかったのです。

「家ができてからまだ1年ですが、擁壁側の居間の床が下がってきているのです。子供がボールを転がすとどうしても擁壁側の南にばかり転がるので調べたら、なんと家の基礎自体が反対側の基礎のレベルよりも32㎜も低くなっているということがわかったんです」

更に擁壁自体も隣地側に4cmほど動いていることが判明しました。このままこの土地に住んでいて大丈夫なのか。気に入った土地を手に入れたはずの後藤さんは今はたくさんの借金を抱えて、暗たんたる気持ちだと言います。

回答

盛り土がしてある土地というのは、それだけで買うときにとても慎重になってほしい物件です。後藤さんの買った土地は、その盛り土をさらに擁壁で止めてあったわけですから、二重に慎重になってほしい土地だったと言えます。

東京都の湾岸の埋立地で、30年間放置され、立ち入り禁止になっている場所があります。これは30年間放置しないと、盛り土が安定しないからで、むやみに建物を建てられないようになっているわけです。

土というのは動植物と同様に水分と空気を多く含んだ物質で、鉄のかたまりと違って、外から力を受けると、水分と空気が押し出されて体積が収縮します。特にいったんすき返した土には多量の空気が含まれており、雨水も吸収されやすいのです。また盛り土はそれ自体の重みで体積が収縮します。1メートルの盛り土をすると、1.6トンの荷重がかかると言われ、これは木造2階建て住宅の荷重に匹敵します。

ですから後藤さんの家の”不同沈下”(建物が不ぞろいに沈下すること)の原因は、盛り土が盛り土そのものと建物の荷重で体積の収縮を起こしたと考えられます。また擁壁も隣地側に動いているわけですから、それによって盛り土が陥没したことも考えられます。

もちろん盛り土した土地がすべてダメということではなく、土はものすごく長い時間をかけて徐々に沈み込んでいくものだということ、盛り土を施すときは土を一挙に搬入して表面だけ地固めしても効果がないこと、何層にも分けて少しずつ地固めしなければならないことなどを知識として知っておくことだと思います。

いずれにしてもたった1年で沈下が起こった後藤さんの家は早い例で、遅い場合は7~8年も経ってから沈下が始まることもあります。人為的な盛り土をした土地は、自然に形成された地盤に比べて注意しなければならない点が多いにもかかわらず、案外考えられていません。後藤さんの場合もどうして事前に地盤調査をしなかったかと、残念に思われます。


教訓

盛り土など人為的に作られた土地を購入するときは慎重の上に慎重に。地盤調査することをお勧めします。