「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.17

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1995年5月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

阪神・淡路大震災で倒壊した・倒壊しなったかは、建物自体の耐震性能より、地盤の良しあしによって運命づけられていた!

不意打ちのように襲ってきた阪神・淡路大震災〔学問的な呼称は兵庫県南部地震)については、連日の報道で多種多様な問題点が指摘されていますが、今回はこれまでの連載でも取り上げてきた「住宅」と「地盤」について論点を絞ってまとめてみたいと思います。


まずは今回の地震の基本的なデータの再確認から検証してみましょう。

気象庁の発表によれば

規模を示すマグニチュード(M)
7.2
震度
7(激震)
加速度
南北方向に818ガル
東西方向に617ガル
上下方向に332ガル

震源は淡路島北端、震源の深さは約14キロの直下型の地震とされていますが,正確には、淡路島北端で起きた地震の波が神戸の方まで伝わったのではなく、淡路島から西宮にかけての六甲山麓の海沿いの低地で、約40キ口にわたって直下の地層(活断層)がずれたことによって発生した地震動です。

地震の規模は,一般には0から7までの震度階級で発表されますが,兵庫県南部地震の場合、発生日は震度6と発表されだものが、現地の被害の状況などを加味して一部の弛域が震度7に上方修正されています。

この震度階級は、本来は気象庁職員の体感と室内の物の動き,建物の被害の程度などを基準にして区分されたものなので、震源域そのものの震動の工ネルギーの大きさを反映した表示ではありません。

エネルギーの大きさを表わすのがマクニチュード(M)で、その計測方法にもいくつかの手法が提案されているのですが、マクニチュードによって断層のずれの範囲、くい違いの長さ、震動した時間が異なり、M7クラスでは、ずれの範囲が30キロ、くい違いの長さが1~2メートル、時間にして10秒程度と言われています。兵庫県南部地震では1.6メー卜ルのくい違いが野島断層で確認されていますが、地下10数キ口でどの程度ずれたのかはまだ明らかになっていません。

すなわち,地下で起こった断層のずれの規模を表すのがマグ二チュードであり、地表での揺れの程度を表すのが震度階級と言ってもよいのではないかと思います。同じマグ二チユードでも震源域が遠隔地でしかも深ければ震度は小さくなるわけです。

加速度というのは瞬発的な揺れの強さを表す単位で、物が落下する際に受ける地球の重カにも相当するような力(980ガル)が横方向にいきなり襲ってくるようなものと思えば理解しやすいでしょう。多くの人の体験談で、テレピが数メー卜ル横に飛んだという証言がありますが、加速度計が800ガル以上を示しているものもあり、関東大震災の東京での加速度が500ガル(推定)であったことに比ベれば、いかに今回の加速度が大きかったのかが分かります。


震度7の地域が、淡路島の北淡路町南部などとJR山陽線沿いの須磨から西宮にかけての細長い範囲に集中しており、もともと軟弱地盤は、地盤の安定した地域に比べて揺れが25倍にも達したとの観測結果が発表されています。(京大防災研究所)

身近な例を挙げて、仮にゼリーと積み木を揺らした場合にどちらの揺れが大きいかを想像してみれば歴然とすると思うのですが、軟弱な地盤ほど震動が増幅されます。京都大学の防災研究所が本地震直後に設置した強震度計によって余震を計測したところ、木造家屋を震動させやすい周波数の波が、地盤の硬い地域に比べ軟弱地盤では25倍にも達していたという結果が出ています。

当然、建物の倒壊率にも大きな開きが認められ、それが震度7の激震に見舞われた狭い帯状の範囲に重なっているようです。(木造家屋の全壊率では約4倍)

神戸では、六甲山麓と海岸低地という二種類の地形が隣接して劇的に変化している立地条件ということもあって、いわゆる丘陵地は地盤が良好で、低地は軟弱地盤という一般的な傾向を当てはめれば、低地側で被害が大きくなるのは当然なのですが、その低地のさらに狭い範囲(幅1.3キ口)で震度が7を示すと同時に,家屋の倒壊が集中したようなのです。

これなり土地を購入し、住宅を建築する予定のある方は、建物自体の耐震性能や転倒防止の家具を備え付けることに悩むより先に、地盤の良しあしによって莫大な被害が発生するかどうかが運命づけられているということを、ますもって重視すベきではないでしょうか。現に芦屋の六麓荘町で家屋の倒壊がなかったことがさかんに報道されましたが、高級住宅街であったために建物のつくりがしっかりしていたというよりも地形か丘陵地の中腹で、地盤が軟弱ではなかったことに起因していることのほうが決定的と考えられます。


現場を踏査して目立つのは、周囲の家屋が全半壊したり、屋根や壁が崩壊している中で、ある種の建物だけが外見上なんら損傷を受けていないという事例に遭遇するということです。一見奇妙なこのような現象はどうして起きたのでしょうか。

理由がいくつか考えられます。思いつくまま箇条書きで列挙してみると、

  • 建物の耐震性能は、とくに筋かいをどれだけ取り入れているか、あるいは耐力壁と呼ばれている構造的に強い壁が、壁の全体の面積に対してどれだけの比率で配置されているかが、設計段階で考慮されていたと思われます。
  • とくに3階建ての住宅の損壊率が小さいことに象徴されてるのですが、「構造計算」を義務付けられている建物は、自由裁量で間取りを決定できない分、筋かいなどのチェックが細かく、地震に強かったようです。一般の2階建てはこの「構造計算」を行わなくても建築確認申請が受理されるのです。
  • 基礎の仕様を決定するに際して、事前に地盤調査を実施し、地盤の性状に見合った適切な基礎が採用されていたようです。
  • 地盤が著しく軟弱で、基礎の仕様変更によってもなお不安があるような場合は、地盤改良などの補強工事が施されていたと考えられます。実際に地盤改良を施した垂水区の住宅などでは、倒壊はおろか、家具の転倒が一階の和タンスのみで、二階の洋タンスが転倒しなかったばかりか、その上の人形ケースも倒れていないという報告が伝わってきています。地盤改良を施すことによって、地震の揺れかたそのものを変調することができるのではないかと思われます。